クルーズコレクション

ザ・ビートルズをめぐる船旅へようこそ

クルーズライフ-Cruise life-
Yoshida Taisuke

イギリス入国を控えた夜、「ビートルズナイト」が行われた。船専属バンドの男性4人がビートルズの面々に扮し、その名曲の数々を演奏する。会場に入りきらないくらいの乗客、そして船員。皆、リズムに合わせて踊る。入国の日、船はテムズ河口に達する。ロンドンが近づくなか、「ビートルズを聴こう!」という企画が行われる。静かに曲に耳を傾けるだけの時間。それでも多くの乗客がつめかけた。イギリスが生んだロックバンド、ザ・ビートルズ。解散(1970年)から半世紀以上が過ぎてなお、その楽曲は世界の人々を魅了する。これよりビートルズをめぐる船旅が幕を開ける。

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文・構成:カナマルトモヨシ(航海作家)
日本各地のみならず世界の五大陸をクルーズで訪問した経験を持つ航海作家。世界の客船を紹介する『クルーズシップ・コレクション』での執筆や雑誌『クルーズ』(海事プレス社)に連載記事やクルーズレポートを寄稿している。
カナマルトモヨシさん 公式ブログ

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短命だったビートルズ設立のブティック

地下鉄でベイカーストリート94番地へ。ビートルズグッズを扱うロンドン・ビートルズ・ストアを目指す。店内は世界中からのファンでにぎわう。そこから徒歩5分くらいの建物に、「ジョン・レノンとジョージ・ハリスンがここで働いていた」というブループラーク(青く丸い直径48センチほどのプレート)が2階に取り付けられている。ここには、ビートルズ設立の「アップルブティック」があった。1967年12月7日にオープン。品ぞろえはファッション衣類とアクセサリーが圧倒的に多かった。しかし多大な損失を出し、翌年7月31日に閉店。その営業期間わずか7か月半だった。

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ジョンとヨーコが暮らした伝説のフラット

ビートルズ夢のあと「アップルブティック」から歩いて数分。ここでもブループラークのあるフラット(集合住宅)がみられる。「1968年7月から11月までジョンとオノ・ヨーコが過ごした」とある。その前の住人はロック史上最高のギタリストといわれるジミ・ヘンドリックス。そしてやはりビートルズのポール・マッカートニーも以前ここで暮らしていた。当時、この部屋の所有者はビートルズのドラマー、リンゴ・スターだった。それゆえミュージシャンの間では「伝説のフラット」と呼ばれる。周囲は何の変哲もない住宅街だが、いまもビートルズの息吹が聞こえてくる気もする。

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世界一有名な横断歩道にまつわるエトセトラ

ベイカーストリートの隣駅セント・ジョンズ・ウッド。この近くに世界一有名な横断歩道がある。ビートルズ事実上のラストアルバム「アビーロード」(1969年)のカバー写真がここで撮影されたためだ。メンバー4人が横断歩道を渡るジャケットで知られるアルバムは大ヒット。やがて世界中からやってくるファンが4人の真似をして横断する「聖地」となり、ここは2010年12月、建物以外で初めてイギリスの文化的・歴史的遺産に指定された。ただし現在の横断歩道はアルバムカバーに使われた当時のものと異なる地点にある。後に数メートルほど移設されたためである。

ビートルズのラストライブは客船で?

1969年、ビートルズは3年ぶりのライブを計画。その一つにクイーンエリザベス2のようなクルーズ客船を2隻ほどチャーターし、ビートルズと観客をアラブの砂漠に連れて行き、たいまつを灯してコンサートをするという奇抜なプランもあった。しかしこの頃表面化したメンバーの不和により中止。それに代わるのが1月30日の昼間、「アップル・コア」本社の屋上で行われたゲリラライブだ。ロンドンのど真ん中で突然始まったコンサートに群衆は騒然。警官が駆けつけ、「Get Back」の演奏後ライブは42分で打ち切られた。その翌年、ビートルズは解散。二度と彼らのライブは実現しなかった。

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「ノルウェーの森」誤訳者はあの人の父親

船はノルウェーへ。ビートルズは1965年に「Norwgian Wood」という曲を発表した。邦題は「ノルウェーの森」。村上春樹氏の小説のタイトルでもおなじみだ。しかしこれは誤訳。Woodsなら森になるが、Woodは木材、材木であり、原題を直訳すれば「ノルウェーの木材」となる。訳者は、東芝音楽工業(当時)でビートルズ担当ディレクターだった高嶋弘之氏。氏はジョージが弾くシタールと、ジョンの物憂げな声を聴いて、「ノルウェーの森だ!」とひらめいたという。なお、高嶋氏の二女は現在、シタールではなくヴァイオリン演奏者として活躍中の高嶋ちさ子さんである。

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本当は怖い「ノルウェーの森」の歌詞

「ノルウェーの森」を作曲したのはジョン。妻子持ちだった彼の実体験をもとにした「浮気の歌」だ。浮気相手の家に行ったら安いノルウェー材の家暮らしなのに、ワインが出てくる。労働者階級出身のくせに背伸びをした生活を楽しむ女に対するジョンの皮肉が込められている。曲の最後に”So I lit a fire(だから俺は火をつけた)”という歌詞がある。「火をつけた」のフレーズをつけたのはポール。「彼女は彼を風呂場で寝かせた。だからその腹いせで、彼女の部屋に…というアイデアが浮かんだ」と語る。最後に男は言う。よく燃えるじゃないか、ノルウェーの木材(の家)は。

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レイキャビクのイマジン・ピース・タワー

レイキャビクに入港する。港の真向かいに浮かぶ島に円筒型の建物が見えた。イマジン・ピース・タワー。ジョンの妻だったオノ・ヨーコさんが構想し、2007年に建設されたモニュメントだ。塔には「世界最北に位置する首都(レイキャビク)から平和の光を発信し、世界を包み込む」という意味が込められている。また、アイスランドが環境に優しい国であることも選定の理由で、塔じたいの電力も地熱発電によるもの。光は毎年ジョンの誕生日である10月9日からその命日である12月8日までの期間などに天空に向けて放たれる。いつかピースボートの船の上から、平和の光を眺めてみたいものだと思った。

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