美しき秘境アラスカの魅力-2-
アラスカをめぐるクルーズの最大の魅力は、雄大な景観がおよそ1,600キロにわたって続く「インサイドパッセージ」にあります。そして、もう一つ忘れてはいけないのが、大自然の中で生きる野生動物との出会い。短くも美しいアラスカの夏の風景――”アラスカの達人”安藤正康さんに伺い、この地で育まれた雄大な自然と文化の魅力に迫ります。
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◆安藤正康さん
「アラスカの達人」と呼ばれるアラスカアドベンチャーのスペシャリスト。HAIしろくまツアーズ代表。常に新しい発想を持って、さまざまな角度から「最後のフロンティア」を紹介している。
豊富な雨がもたらす景観美
年間を通して厳寒なイメージのあるアラスカですが、インサイドパッセージのある南東部沿岸はアラスカで最も温暖な地域で、7月の気候も比較的穏やかです。フィヨルドの大地に海洋性の湿った空気が流れ込むため降雨量が多く、苔むした豊かな森が醸し出す有機的で情緒ある風景が楽しめます。雨は多いものの天気が変わりやすいのが特徴で、晴れたり降ったり曇ったりと、刻一刻と天候が変化する不思議な景観が堪能できるでしょう。
そんな豊かなエリアに集まってくる動物たちとの出会いも、アラスカをめぐる旅の大きな楽しみです。
アラスカの海に生きる動物たち
夏のインサイドパッセージでは、大型クルーズ船からでも大型の海洋生物が観察できる可能性が大いにあります。この時期アラスカでもっとも遭遇する確率の高いクジラは、ザトウクジラ。もしかすると、大きなクジラが海面でジャンプする「ブリーチング」の様子を見られるかもしれません。かつて私もクジラの群れがブリーチングする場面に遭遇したことがあるのですが、楽しそうに何十回もジャンプを繰り返す姿は、本当に感動的でした。ただ、夢中で撮影しているうちにカメラのバッテリーが切れてしまって(笑)事前にきちんと充電し、予備バッテリーも備えたうえでクルーズに臨まれることをお勧めします。
シャチやイルカと出会う可能性もあります。シャチには旅をする個体と定住型の2タイプがいるのですが、旅をするシャチは主に肉食で、魚以外にアザラシやトド、イルカも狙います。そうすると他の大型の海洋生物は他の海域へと逃げていってしまいます。なので、シャチが観察できても、その代償に他の動物と出会えない可能性もあります。
ところがスワードには、定住型のシャチが40頭ほど生息しています。彼らは気性が穏やかで魚を主食としているため、他の海洋生物と共存しています。ですのでスワード近辺では、運が良ければシャチやクジラ、イルカが同時に観察できる可能性があります。
頭上に目を向けると、高い木のてっぺんで羽を休めるハクトウワシの姿が確認できるでしょう。気をつけて見ていれば、頭が白いので初めて見る方でもわかると思います。
また、これはほとんど出会えないのですが、アラスカには灰青色の毛を持つグレーシャ―ベアという希少な熊がいます。アラスカの撮影で有名な写真家の星野道夫さんも撮影したいと夢に願っていたそうで、研究者やプロの動物カメラマンでも滅多に出会えない伝説的な存在です。クルーズ中に見られる可能性は限りなくゼロに近いと思いますが、「もしかしたら!」という期待を胸に深い森を眺めていると……奇跡が起こるかもしれませんね。
アラスカと日本を結ぶ伝説
日本からアラスカへは、貿易風や潮流の影響によって古くから海を超えて多くの人や物がたどり着いたといわれています。例えばアラスカには、どこからか漂着した聡明な三姉妹がそれぞれネイティブの部族を率いて立派なリーダーになったという伝説があります。地元のネイティブたちの間では、その三姉妹は日本から渡来したという説があるのです。江戸時代の商人がロシアに漂着した後に世界一周を果たしたという史実もあるし、可能性もありそうですよね。こんな風に、クルージングを通して海でつながるアラスカと日本の歴史に思いを馳せてみるのも、船旅ならではの体験かもしれません。
港町スワードで過ごすひととき
アラスカ湾沿いを進んだ先にたどり着くのは、キーナイ・フィヨルドの麓に位置するスワードの町。ここは人口約3,000人の規模ながら、多くの釣り人が訪れる良質な漁港として知られます。アラスカで魚といえば真っ先に思い浮かぶのはサーモンですが、現地で非常に人気が高いのは「オヒョウ」と呼ばれる魚です。これは、大きいものでは3メートル超にもなる巨大カレイ。非常に脂が乗っていて、身が肉厚で美味しいんです。あとは野菜。アラスカは夏の間、日照時間が長いのでどんどん育ちます。スワードの町を歩いていると、1メートルのズッキーニや1.2メートルのキャベツに出会えると思いますよ。
スワードは、アラスカ鉄道の南の終着駅でもあります。この路線は内陸を走っているため、陸上の氷河や北米最高峰のデナリ山など、沿岸とは全く異なる景観を目にすることができます。駅を訪れると、紺と黄色が特徴的な車体を写真に収めることができると思います。
どこまでも雄大で美しく、厳しくもあるアラスカの大自然とそこにある人びとの暮らし。さまざまな見どころを紹介してきましたが、何よりもお伝えしたかったのは、アラスカという土地の豊かさです。ひとつひとつの魅力が有機的に交わって生まれる調和した雰囲気を、ぜひ体感してくだい。
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