クルーズコレクション

アフリカで暮らす

2024年8月22日

インタビュー

その広大な大地に、数多くの魅力が詰まったアフリカ大陸は、ヨーロッパ列強たちによる分割やアパルトヘイト政策(人種隔離政策)など、厳しい年月を強いられてきた歴史があります。長く南アフリカに暮らし人びとと深くつながってきた渡辺直子さんに、アフリカでの心を揺さぶられる日々を伺いました。

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渡辺直子さん(日本国際ボランティアセンター(JVC)理事)
2005年南アフリカ事業担当としてJVC入職。2009年から南アフリカHIV/エイズプロジェクトマネージャー、 2010年より同国現地代表を経て、2012年度より再び東京をベースとした事業担当。同年より、モザンビークにおいて日本のODAにより行われた大規模農業開発「プロサバンナ事業」に対して、現地の小規農家たちが「環境破壊が起き、土地が奪われる」と抗議の声をあげたことを受け、この課題に取り組むための現地調査や日本政府に対する政策提言活動も行ってきた。

Social Good Photography, Inc.

厳しい環境下での支援

アフリカ大陸の最南端・南アフリカ(南ア)は、ヨーロッパ諸国からの支配とアパルトヘイト(人種隔離政策)が続いた複雑な歴史をもつ国です。国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター(JVC)」は、アパルトヘイト撤廃が決定した翌年の1992年から現地で活動を始めました。私は2005年から事業担当になりましたが、当時は HIV/エイズの問題が深刻でした。JVCが活動していた農村部の村には病院もなく、地域の女性たちが「訪問介護ボランティア」としてホスピスのようなケア提供している状況でした。彼女たちと協力しながらHIV陽性者や、エイズで親を亡くした子どもたちの支援をしてきました。

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HIV/エイズとどう向き合うか

2010年、JVCの周年シンポジウムに、当時活動に参加していたHIV陽性の女性、セリーナさんを招聘した際、彼女が日本の陽性者の方と交流をしたいと言うので場を設定したことがありました。あとで感想を聞くと「日本は医療機関も治療も充実していて、普通に仕事をしている方も多いけれど、そのぶん一人でエイズの問題に向き合っているように見えた。一方、私たちには何もないけれど、日々自宅に来てくれる訪問介護ボランティアがいて、地域に陽性者の自助グループがあり、皆で一緒に支えあい、困難に向き合える。どっちがいいのかわからなくなった」と言われました。「確かにそうかもしれない」と衝撃を受けました。

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現地の人に助けられ教えられる日々

現場では、発症した方が次々と亡くなっていくなど無力感に苛まれることばかりでしたが、人とのつながりやそれをベースとした社会のありようなどを学び、NGO活動の意義を逆に教えてもらう機会も多くありました。目の前の壁を一つクリアすると、また次の壁が現れる日々の中、現地の人たちにたくさん教えられ、助けられながら乗り越えてきました。2009年に政権が変わりHIV/エイズ政策が改善され始めると、医療や薬にアクセスしやすくなり、HIV陽性でありながら生きられる人が増えてきました。そこで次は服薬のレクチャーと、服薬のための栄養状態保持のため、食料を育てる農業の充実を目指すことになりました。

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自らの手で未来をつくりだせるから

こうした社会状況の変化や、国際情勢や時代の流れなどを受けて、2016年頃から「海外のNGO」としての将来的な活動のあり方や必要性の有無を考えるようになり、現地の人たちに相談し始めました。その中で、当時農業研修のトレーナーを務めてくれていたジョンさんに言われたのが、「日本のような先進国からアフリカに人を送って駐在させてプロジェクトをやる時代は、もう終わってもいいんじゃない?」ということです。すごく真っ当な意見で、長い歴史の中で尊厳を踏みにじられた人たちが、自分たちの未来を自分たちで作り出せると思えるところまで来たんだなと。正直に言ってくれてとてもうれしかったです。

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これからの社会の在り方に目を向けて

それ以降、JVC南アフリカ事業では、駐在員を置かずに現地のスタッフらだけで調査を行い、活動を計画、実施できるようにしてきました。政策上の改善は確かにありますが、南アのHIV/エイズ感染拡大の背景には、貧困や女性の地位の低さ、犯罪など様々な社会課題が複雑に絡んでいます。次の世代が知識や情報を身につけて行動を変えないと、負の連鎖は永遠に終わらないと考え、現在はエイズで親を亡くした子を含む「脆弱な家庭環境下に置かれた」10代の青少年らのサポートと育成(エンパワメント)の活動を行っています。素直な子どもたちの変化や成長はすごいもので、こちらが希望をもらい、励まされています。

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現地の人たちから学んだ、大切なこと

先進国と言われる国に住む私たちからすると、南アや途上国の暮らしは問題があったり、あれもこれも足りていないように感じてしまうかもしれません。しかし「どんな社会を目指すのか」という問いには「これ」という答えがない。そこで生きる人が何を幸せと思い、何を守っていきたいかを自分たちで考えて、決めて、つくっていくもの。先進国のやり方を押し付けるのは違うし、比べるものでもないんですよね。たくましく生きる現地の人たちとの出会いと、彼女・彼らに学びながらここに気がつけたことが、私が 南アフリカで暮らした日々で一番印象に残る、大きなことです。

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