長年の疲れを癒し、贅沢な時間を過ごしています。
福島で地域医療に携わって
祥克さん:夫婦それぞれ関西の出身ですが、30代半ばから縁あって福島で暮らしています。医者をしているんですが、65歳で定年を迎えてからは嘱託医として働いています。乗船直前まで仕事をしていまして、帰ったらまた仕事に復帰するつもりです。/裕子さん:大学で知り合って結婚して、関西に住み続けるのかなと思っていたら福島で暮らすことになり、それぞれに福島の地域医療に携わってきました。協同組合といって、何人かの医者で複数の診療所を担当しています。子育てしながら仕事を続け、お互いにがんばってきたので、「最初で最後のご褒美に世界一周を」と思ってこの船旅に参加しました。
体に刻まれた震災の記憶
祥克さん:船に乗っていると、時々船先に波が当たる際の振動を感じるときがあります。私たちは福島で震災を経験しているので、未だに揺れに敏感になりますが、そのあとに「ここはピースボートだから大丈夫だ」と一安心するんです。やっぱり13年経った今でもその感覚は体に残っていて、なかなか消えません。/裕子さん:この体のどこかがそれを覚えていて、なかなか抜けきれないですね。/祥克さん:震災以降は多くの患者さんの心配事や不安を聞いて、心療内科的な面も担ってきたので、その方たちの想いも心の中にズシンと入ってきて、それらも僕自身からなかなか抜けなかったですね。
長年の疲れを少しずつ手放して
祥克さん:あの震災以降、福島のことはほとんど報道されませんし、いろんな不安の中で県外へ自主避難した人たちもいます。そんな中でも僕らは医療をとおして福島に関わり続けたいと思っているので、この仕事は辞められないですね。/裕子さん:このクルーズがはじまって、日々いくらでも寝れることに驚いています。やっぱり長年の疲れがあったのかなって。最近はやっと、昼寝をたくさんしなきゃという気持ちは抜けてきましたね。/祥克さん:そういう訳で、毎日海の表情を見て、朝日や夕日、地球の素晴らしさを感じて、ものすごく贅沢な時間を過ごしてる気がします。それだけでもういいですね。
多言語な空間は想いを共有できる
裕子さん:船内が日本語、中国語、韓国語、英語と多言語で運営されているのもいいですよね。いいものを見たり聞いたりしても、「わからない」というのは怖いじゃないですか。私たちも英語はほとんどわからないけれど、それを日本語に訳してくれるだけで、“いいこと”を享受でき、とても親切ですよね。そういうシステムを運用していることは、すごいことだと思うんです。ほかで、こんなに親切でグローバルな旅はないでしょ。/祥克さん:部屋を担当してくれているハウスキーパーの方がインドネシアの方で、簡単な挨拶を教えてもらって、「テレマカシー」と声をかけたり、ありがとうの気持ちを伝えています。そういった交流も楽しいんです。
「地の果て」への旅
裕子さん:寄港地ではナミビアが一番印象的でしたね。南アフリカのケープタウンから約300kmかけて、ナミブの赤い砂漠を目指すんです。/祥克さん:飛行機に乗って着いたのが砂漠のど真ん中の飛行場で、見渡す限りの砂地。そこから車で4~5時間かけて砂漠の奥まで行って、これまた砂漠の中のロッヂで2泊しました。車も荷物も砂だらけになりましたが、「地の果てに来た」という感じで、普段なら自分たちで選ばないところに行けたのもよかったです。南アフリカのケープタウンから北極圏に向けて、南から北に上がっていく旅は滅多にないですよね。
旅の思い出、似顔絵アート
裕子さん:フランスに行くこともひとつの目標にしていたので、そちらもオーバーランドツアーで行きました。/祥克さん:モンマルトルの丘に行って、画家の方に似顔絵を描いてもらいました。65歳から行き始めた海外旅行では、大抵どこでもその地のアーティストに似顔絵や書を描いてもらっているんです。/裕子さん:その出会いも旅の楽しみになりますし、作品が手元に残るのも思い出になりますよね。/祥克さん:人とは違った、でも旅の記念にもなるものはないかなと思って始めたんです。このクルーズを入れて、これまで5枚くらい描いてもらいました。
ピースボートは、ただの旅行じゃない
祥克さん:ピースボートに乗船したのは料金のリーズナブルさが決め手でしたが、旅を通じてSDGsやICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)などいろんなことをやっていて、特に若い人はそういったことが勉強できるなぁと、実際に乗って思いました。ただの旅行だと「お金のある人の居場所」になっちゃうけど、若い人たちが世界を知る、実際に現地に行って学ぶという意味では決して高くないし、もっともっと参加者が増えてほしいなと思います。/裕子さん:私も最初は「何もしない非日常の時間」を求めて参加したけど、自分だけの時間を味わいつつ、自分だけの何かを見つけたり、視野を広げることができる場だなと感じています。
周囲から刺激を受けて、また地域でがんばる
祥克さん:今回の旅に参加するときに、地域の人たちからは「行かないで」と言われましたが、「必ず帰ってきますよ」と約束してから来ました。帰ったら、また医者として福島の人たちと関わり続けていきたいです。/裕子さん:こんな長旅、体力的にも“最初で最後”だと思って参加したんですが、そんなこと言うのもおこがましいと思うほどご高齢で元気な方がいっぱいいるし、皆さんいろんなことに積極的なんですよね。ハンディキャップのある方も、それをものともせずに楽しんでいらっしゃる。そんな姿を見たら今からでもいろんなことにチャレンジができるんだと感じますし、もっとアクティブになってもいいんだと思っています。
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